消化器内視鏡手術の発展と電気メス
消化器内視鏡手術は、私たちの医療を大きく変革した技術の一つです。この手術は、開腹手術のように体を大きく切開することなく、内視鏡と呼ばれる細い管状の医療機器を口や肛門から挿入して、消化管(食道、胃、大腸など)の中を直接観察しながら、治療を行うものです。この革新的な技術の進化には、電気メスの発展が欠かせませんでした。
消化器内視鏡の夜明け
初期の内視鏡は、硬い管でできており、観察できる範囲も非常に限られていました。しかし、1950年代に胃カメラが開発され、消化管内部を直接撮影できるようになります。そして、1960年代には軟性内視鏡が登場し、より安全で広範囲の観察が可能になりました。この軟性内視鏡の登場が、内視鏡治療の扉を開いたと言えるでしょう
内視鏡治療の進歩と電気メスの役割
内視鏡がただの「観察ツール」から「治療ツール」へと進化したのは、内視鏡の先端からさまざまな処置具を挿入できるようになってからです。初期の治療法として、内視鏡を使いポリープを切除する「ポリペクトミー」が確立されました。このポリープを切除する際に不可欠なのが、高周波電流を利用した電気メスです。
電気メスは、高周波電流を流すことで組織を瞬時に切開・凝固させる機器です。内視鏡手術では、切除したい組織に電気メスの先端(スネアなど)を当て、電流を流すことで出血を抑えながら安全に組織を取り除くことができます。
開腹手術で使われる電気メスとは異なり、内視鏡手術用の電気メスは、より繊細な操作が求められます。患者さんの体への負担を最小限に抑えるため、出血や穿孔(せんこう:消化管に穴が開くこと)といったリスクを極力避ける必要があります。
現代の消化器内視鏡治療と電気メス
現在では、内視鏡と電気メスを組み合わせることで、初期の胃がんや大腸がん、食道がんなど、外科手術をせずに治療できるようになっています。特に、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、病変の大きさや形状に関わらず、病変を一括で切除できる画期的な技術です。このESDの成功は、組織を正確に切開・剥離できる高性能な電気メスの存在があってこそ実現しました。
電気メス内視鏡モードの搭載
開腹手術で使われる電気メスに内視鏡モードが無かったころは、切開ペダルと凝固ペダルを交互に踏み分けて操作する必要があり、操作性には慣れが必要でした。
現代の電気メスには内視鏡モードが搭載されているモデルもあり、踏み分けすることなく、切開ペダルを踏むだけで、簡単に切開と凝固を出力できるようになりました。
電気メスの安全性と今後の展望
電気メスの性能向上は、治療の安全性向上に直結します。高周波電流の出力や波形を精密に制御することで、組織へのダメージを抑え、より安全な手術が可能になります。今後も、内視鏡技術と電気メスは進化を続け、患者さんの負担をさらに軽減する低侵襲な治療法が開発されていくことでしょう。
電気メスは、内視鏡手術の発展を支えてきた、まさに「縁の下の力持ち」と言えます。私たちの製品が、日々の医療現場で患者さんの健康を守る一助となれば幸いです。