1:ミルキングとは?
ミルキングとは乳搾り(ちちしぼり、Milking)、「搾乳」を意味する英語です。語源としては、牛の乳頭に溜まっている乳を排出させ、乳頭内を減圧することで体内の乳を乳頭に貯めることです。ドレーンの場合もドレーン内の排液を排液バッグに排出し、かつドレーンを減圧することで体内の排液をドレーン内に引き込む行為がミルキングです。外科手術後のドレーン以外にも尿道カテーテル、シャント血管、点滴等で日常的に行われています。
2:ミルキングの目的
ドレーンが詰まり体腔内に排液が貯留することで引き起こされる合併症を予防することがミルキングの目的です。 術初日が最も排液量が多く血腫ができる危険性が高くなるので、特に入念にミルキングを行い溜まっていた浸出液や血腫を体外に排出することが必要です。その他にも排液量の減少を認めた場合にスムーズな排液を促すため、排液が粘稠度の高いものである場合、凝血塊などがみられる場合にもミルキングが奏功します。
3:どのような処置か?(術後のドレーンの場合)
ミルキングには手動で行う場合とミルキングローラーと呼ばれる専用の器具を用いて行う場合との2つの方法があります。ミルキングローラーには金属製のものとプラスチック製のものがあります。ミルキングローラーを使用すればドレーン内に貯留した血液・排液を効果的に排出させることができますが、その反面、金属製のローラーを使用した場合、シリコーン製など柔軟で細いドレーンを損傷させる恐れがあるので注意が必要です。
4:ミルキングの方法
●手動で行う方法: チューブを指で挟み排液バッグの方向へ滑らせて排液を押し出します。
① ドレーン抜去を防ぐためにドレーンの挿入部から数cmの部分を左手の指でクランプする(右利きの場合:以下同様)。もう片方の手(右手:利き手)で排液バッグ側のドレーンを挟む。
② ミルキングしたい部分を手前にしごくようにゆっくりと排液バック側へずらし、ドレーン内の凝血塊やフィブリンを移動させ排出させる。
③ アルコール綿を介在させ、シリコーン製ドレーンをミルキングする場合は注意が必要です。別コラム「シリコーンとアルコールの相性について」をご確認ください。
④ 挿入部に近い部分をクランプした左手指を緩める。
⑤ 手前にしごいた右手側を離す。これらの作業を必要な回数繰り返す。
(ミルキングの回数例:術後初日=1時間に1回/1分間ミルキングする)
●ミルキングローラーで行う方法:
専用のミルキングローラーでチューブを挟んで排液を押し出す。
① ドレーン抜去を防ぐためにドレーンの挿入部から数cmの部分を左手指でクランプする。もう片方の手(右手)でミルキングローラーを持ち、排液バッグ側のドレーンを挟む。ローラーのエッジ部(端)を挟むとローラーが回転せずドレーンを損傷させる危険があるため、必ず中央を挟むようにする。
② ハンドルを押さえたまま、ゆっくり排液バッグの方に滑らすように移動させ排出を促します。この際、ドレーンが引っ張られることで抜去の可能性があるのでドレーンを持っている手(左手指)をしっかり固定しておく。
③ 排出が終わると、ローラーで挟んだまま、ミルキングによって伸びてしまったドレーンを元に戻す。
④ 最初に左手指でクランプしていた患者側のドレーンを開放し、次に右手のローラーのハンドルを緩めて流路を開放する。これらの作業を必要な回数繰り返す。
5:社内実験データ:ミルキングしたときのドレーン先端に掛かる陰圧値
外径が10Fr(約3mm)、15Fr(約5mm)、24Fr(約8mm) のドレーンを約20cmミルキングしたときドレーン先端部にかかる陰圧値を測定。
※ 注意点&ポイント
ここでの注意すべきポイントは、初めにドレーン挿入部をクランプしていた左手指を外すタイミングです。圧迫された左手の部分と右手のドレーンの中は減圧されて潰れた状態になっています。この状態で左手指のクランプを外すと体腔内のドレーン先端部付近が一気に減圧され、例えば24Frのドレーンを20cm排液バッグ側にミルキングした場合、約500hpa(≒cmH2O) もの陰圧がかかることが実験で示されています。臓器と接しているドレーンの場合、急激な陰圧で臓器そのものに吸着することによる出血や腸管の吻合部に置かれた場合にはリークも危惧されます。ミルキングを行う場合には、念のため状況や症例に応じてドクターの判断を確認する必要があります。
【ミルキングしても良いドレーン】
〈心嚢ドレーン、胸骨下ドレーン〉開心術後、出血も多く閉塞リスクも高いのでしっかりと行います。閉塞すると、心タンポナーデを引き起こすので要注意です。
〈胸腔ドレーン〉フィブリン塊や血液などで閉塞しそうな場合にはミルキングしますが、持続吸引していることが多いので医師判断に委ねます。
〈腹腔ドレーン〉臓器内ではなく、腹腔内のドレーンであれば通常行っても可能です。
【ミルキングしてはいけないドレーン】
〈脳室ドレーン・脳槽ドレーン・スパイナルドレーン〉これら脳外科領域のドレーンはナースサイドでのミルキングは禁忌です。医師判断で必要な場合にのみ行うこともあります。ミルキング手技でも記載しましたが、ミルキングにより組織が吸着されドレーンの閉塞や組織の損傷を招く恐れがあります。
〈膵管ドレーン〉ミルキングにより、胆汁や膵液の逆流を起こし漏れ出てしまう恐れがあります。胆汁や膵液が腹腔内へ漏れ出ると、組織や内臓脂肪の融解などと共に重篤な腹膜炎を引き起こすため、原則ミルキングは禁忌です。
6:ミルキングに関する研究
① 「ミルキング実施群でドレーン閉塞率が8%から2%に有意に低下した(p<0.05)」
⇒ドレーンの詰まりが減少したことによりドレーン交換頻度が減少した。
【J Surg Drainage 2023(n=180)】
② 「強圧のミルキングは軽圧ミルキングの2倍の出血リスクがある」
【Nurse Pract Skill 2022 (RCT)】
③ 「ミルキングローラーの使用により、ミルキングに要する時間が48%短縮された」
⇒夜勤中の負担が楽になった。
【日本看護技術学会 2024】
7:おわりに:ミルキングは思っている以上に奥が深い手技です。ドレーン不良による合併症を防止するため、適切な操作で安全で効果的なミルキングを行いましょう。


