筋弛緩モニターとは
全身麻酔での手術では多くの場合で筋弛緩薬が使用されます。麻酔科の先生方は、手術の進行に応じて筋弛緩の深度を細かくコントロールする必要があります。
手術が終了し、麻酔からの覚醒へ向かう際、筋弛緩薬の作用が完全に回復していない状態(残存筋弛緩)で患者様を覚醒・抜管してしまうと、気道閉塞や誤嚥などの重篤な術後合併症を引き起こすリスクが高まります。
このリスクを回避するために不可欠なのが、筋弛緩の度合いを客観的に評価する筋弛緩モニターであり、その中でも最も一般的に使用されるのがTOF(Train-of-Four:四連刺激)です。
TOFとは? TOF比とTOFカウント
TOFは、末梢神経に一定の間隔で4回の電気刺激を与え、それによって誘発される筋肉の収縮の程度を測定する方法です。これは麻酔からの覚醒時だけでなく、適切なタイミングでの挿管を見極める目安としても非常に有効であり、安全な麻酔管理に欠かせない指標です。

【TOF比】
「TOF比」は4回の刺激のうち、最初の刺激(T1)による筋収縮の高さと、4番目の刺激(T4)による筋収縮の高さを比較します。
筋弛緩が完全に回復している状態(もしくは筋弛緩薬投与前の状態)では、4回の刺激に対する反応の高さはほぼ均一になり、TOF比(T4/T1)は1.0(または100%)に近づきます。
筋弛緩が残存している状態(もしくは筋弛緩薬が効いている状態)では、T4の反応がT1よりも弱くなるため、「TOF比」は1.0を下回ります。
この「TOF比」を客観的に数値化することで、麻酔科医は患者様の筋弛緩の状態を正確に把握することができます。


【TOFカウント】
筋弛緩が効いてくると刺激に対する反応が徐々に消失していきます。4番目の刺激(T4)に対する反応が消失すると、「TOF比」は「TOFカウント」へと移行します。
TOFカウントが「0」になるのを確認してから挿管を行うことで、声帯の不随意な動きを抑え、喉頭展開時の抵抗を最小限にした愛護的な気道確保の目安になります。
逆に、4番目の刺激(T4)に対する反応が出現し始めると、筋弛緩からの回復が始まったことを示します。この時点で「TOFカウント」から再び「TOF比」に移行し、筋弛緩状態からの回復度の評価が可能となります。

残存筋弛緩(Residual Curarization)の危険性
筋弛緩薬の効果が完全に切れていない状態で抜管を行うと、残存筋弛緩という状態に陥ります。
臨床的には、TOF比が0.7未満では呼吸機能障害が発生し始め、0.9未満であっても咽頭機能(嚥下・気道防御)の低下が認められます。
残存筋弛緩が引き起こす主なリスクは以下の通りです。
気道閉塞:舌根沈下や喉頭・咽頭筋の弛緩により、上気道が閉塞し、呼吸困難を招きます。
誤嚥性肺炎:嚥下反射や咳反射が不十分なため、口腔内分泌物などが肺に誤嚥され、肺炎のリスクが高まります。
安全な抜管には、TOF比が0.9(90%)以上であることが国際的に推奨されており、日本麻酔科学会でも推奨されています。客観的なモニターで「TOF比 0.9」という数字を確認することは、患者様を術後合併症から守るために重要です。
まとめ
TOFモニタリングは、麻酔科医の「感覚」に頼るのではなく、根拠に基づいた安全管理を可能にします。麻酔導入時の確実な挿管から、術中の適切な筋弛緩維持、麻酔覚醒時の安全な抜管にいたるまで筋弛緩モニターを使用し、「数値で筋弛緩状態を確認する」ことは、術後の重篤な合併症を防ぎ、患者様に質の高い、安全な手術を提供することに繋がります。
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