はじめに
IABP(大動脈内バルーンパンピング)は、心臓の動きに合わせてバルーンを膨らませたり、しぼませたりすることで心臓の働きを助ける治療法です。このバルーンの動きを心臓の動きとぴったり合わせることが、治療効果を最大限に引き出すために非常に重要な要素となります。この「心臓の動きと合わせる」ことを、いわゆる「同期」と呼んでいます。
同期はなぜ重要なのでしょうか?
心臓は、一定のリズムで収縮(ポンプとして血液を全身に送り出す)と拡張(全身から血液を受け取る)を繰り返しています。
- 収縮期:心臓がポンプのように縮み、全身に血液を送り出す時期。
- 拡張期:心臓が広がり、全身から血液を受け取ると同時に、冠動脈(心臓自身の筋肉に血液を送る血管)に血液が流れる時期。
IABPでは、この拡張期にバルーンを膨らませて冠動脈への血流を増やします。そして、次の収縮期の直前にバルーンをしぼませて、心臓が血液を送り出しやすくします。このタイミングがずれてしまうと、心臓に負担がかかってしまったり適切な治療効果が得られません。
同期の鍵を握る「トリガー」
このタイミングを正確に合わせるために、IABP駆動装置は心臓の動きを検知する必要があります。このきっかけとなる信号を「トリガー」と呼びます。一般的に、IABPでは患者さんの心電図(ECG)や動脈圧波形をトリガーとして使用します。
- 心電図(ECG)トリガー:心電図のQRS波(心臓が収縮する直前の電気信号)をトリガーとします。
- 動脈圧波形トリガー:動脈圧波形の中で、心臓の収縮を示す特定のポイントをトリガーとします。
これらのトリガー信号によって、IABP駆動装置は「今から心臓が収縮する」あるいは「今、心臓が拡張期に入った」ということを正確に判断し、適切なタイミングでバルーンを膨張/収縮させ心臓をサポートしています。
同期がずれるとどうなる?
もし、心電図(ECG)や動脈圧波形の信号が消失したり、散発的に同期ができない状況が発生した場合、IABP駆動装置はトリガーとなる信号を正確に捉えることが難しくなります。その結果、バルーンが適切なタイミングで膨張/収縮ができなくなり、治療効果が低下することや、かえって心臓に負担をかけてしまうリスクが生じます。このように、IABPは「同期」という精密なタイミングが鍵を握る治療法です。そして、その同期を正確に行うために、「トリガー」となる心臓の信号をIABP駆動装置はリアルタイムでモニタリングしています。