「非侵襲的排痰法」についてご紹介した中に「体位ドレナージ」という方法を、今回は掘り下げて学んでいきます。呼吸ケアの現場でよく使われる基本的な技術であり、患者さんの安全かつ効果的な排痰に欠かせない方法です。
肺の解剖学と肺野の区分
肺は左右に分かれ、それぞれがさらに複数の「肺葉」に区分されています。
右肺:上葉・中葉・下葉の3つ
左肺:上葉・下葉の2つ(中葉に相当する部分は「舌区」と呼ばれる)
また、肺野はさらに細かく「肺区域」に分かれ、それぞれに気管支が枝分かれしています。
末梢(直径2mm以下の細い気管支)に溜まった痰は、自然な咳だけでは排出が難しく、中枢側(直径2mm以上の気管支)へ移動させた後に、喀出や吸引を行う必要があります。
<肺区分>
右肺(10区域)
・上葉(3区域)
肺尖区(S1)、後上葉区(S2)、前上葉区(S3)
・中葉
外側中葉区(S4)、内側中葉区(S5)
・下葉
上・下葉区(S6)、内側肺底区(S7)、前肺底区(S8)
外側肺底区(S9)、後肺底区(S10)
左肺(9区域)※
・上葉(5区域:舌区を含む)
肺尖区(S1+2)、前上葉区(S3)、上舌区(S4)、下舌区(S5)
・下葉(4区域)
上・下葉区(S6)、前肺底区(S8)、外側肺底区(S9)、後肺底区(S10)
※心臓があるため左肺にはS7が存在しない
体位ドレナージとは?
体位ドレナージとは、体の姿勢を工夫し「重力」を利用し、末梢に溜まった痰を中枢へ移動させる方法です。
主な目的は、以下の通りです。
1.末梢肺領域からの分泌物移動を促進する
2.気道分泌物の排出を助ける
3.無気肺の改善
4.換気、酸素化の改善
実施方法の基本
現在は、「頭低位」を避けた修正された排痰体位が用いられます。
・側臥位:外側肺底区(S9)ー側全肺野
・前傾側臥位:上葉後区(S2)や外側肺底区(S9)。腹臥位の代用としても実施されます
・腹臥位:上下葉区(S6)や後肺底区(S10)
・仰臥位:肺尖区(S1)や上葉前区(S3)、前肺底区(S8)
・後傾側臥位:中葉・舌区(S4、S5)
実施時間は通常3~15分程が目安ですが、患者さんの状態により調整します。褥瘡予防のため皮膚の圧迫部位を確認することも大切です。
注意点と禁忌
体位ドレナージは安全に行うための配慮が欠かせません
・実施前後や経過中に呼吸状態、バイタルサインを確認する
・痰がどの部位にあるかを画像検査や聴診で評価してから実施する
・無理な吸引は気道損傷や出血の原因になるため避ける
また、以下の場合は、禁忌または慎重な対応が必要です。
・絶対禁忌:頭頸部損傷で固定ができない場合、活動性の出血など
・相対禁忌:頭蓋内圧亢進、喀血、重度心不全、大量胸水、骨折など
まとめ
体位ドレナージは「痰を咳で出しやすくするための準備」とも言えます。肺の解剖を理解し、痰の位置に合わせて適切な体位を選ぶことで、安全かつ効果的な排痰が可能になります。患者さんにとって快適かる安心できる呼吸を支えるため、医療現場で欠かせない基本技術のひとつです。
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