大動脈内バルーンパンピング(IABP: Intra-Aortic Balloon Pumping)は、重症心不全や心原性ショックの患者さんに対して、心臓のポンプ機能を補助する補助循環療法の1つです。IABPでは、大動脈内に留置したバルーンカテーテルを心拍に合わせて膨張・収縮させることで、冠血流の増加と心臓の負担軽減を図ります。この動作を支えているのがヘリウムガスです。
では、数ある気体の中から、なぜヘリウムガスが選ばれているのでしょうか。
応答性に優れるガス特性
IABPのバルーンは、1回の心拍ごとに合わせて瞬時に膨張・収縮する必要があります。そのため、カテーテル内部を高速で移動できるガスが求められます。過去には二酸化炭素が使用されていましたが、分子が重いためガス移動が遅く、IABPに求められている迅速な動作には適していませんでした。一方、水素ガスは非常に軽く応答性に優れていますが、可燃性(爆発性)があるため、医療用途では安全に使用できないデメリットがあります。
その点、ヘリウムガスは
- ✓ 水素ガスに次いで非常に軽い
- ✓ 粘性が低いため、細いカテーテル内でも素早く移動できる
- ✓ 不燃性で安全性が高い
といった特徴があります。
この特性により、細いカテーテル内でも素早く移動することができます。その結果、バルーンは心臓の拍動ごとにほぼ瞬時に膨張・収縮し、拍動に正確に同期した補助循環を実現することが可能になります。
バルーンラプチャに伴う臨床的リスク
ヘリウムガスを使用するIABPにおいて、石灰化病変等の接触によりバルーン膜に孔(あな)が発生する「バルーンラプチャ」は重大な事象として認識されています。理由として、孔が発生した部位よりヘリウムガスが血液中に漏れ出た場合、ヘリウムガスが血管を塞ぐ「ガス塞栓症」を引き起こす可能性があるためです。また、駆動装置がヘリウムガスを回収する際の陰圧により、バルーンカテーテル内部に血液を引き込む場合もあります。血液を引き込んだ際は、時間の経過とともに血液が凝固することでカテーテル抜去が困難になる可能性や、適切な補助効果が得られないケースも報告されています。このため、IABP療法ではバルーンラプチャの早期発見と適切な対応が重要とされています。
ヘリウムは医療分野でも重要な資源
ヘリウムは、IABPだけでなくMRI装置(超電導磁石の冷却)や半導体や光ファイバ製造にも使用されている重要な資源でもあります。特にMRIでは、超電導磁石を極低温に維持するために液体ヘリウムが不可欠であり、供給が停止すると装置が稼働できなくなる可能性があります。しかし、ヘリウムは天然ガスの精製過程で回収される資源であり、産出地域が限られているという特徴があります。そのため、世界情勢の影響により供給不安が指摘されることもあり、近年ではヘリウムのリサイクル技術や消費量削減技術、供給源の多様化などが進められています。